1945年3月24日から1946年12月28日まで、1年9ヶ月ほどを上海で過ごした筆者によるエッセイ集。
乞食、淫売、ギャング、バー、キャバレー・・・混沌として、時には異様な魅力を放つ都市・上海。
「戦後の生き方そのものに決定的なものをもたらしてしまった」
という上海体験を綴ったエッセイは、日本と中国の関係の内在的な記録でもある。
時折行間に浮かび上がってくる日本と中国の「血の歴史」。それにもかかわらず「中国について日本人が、戦後に書いた、もっとも美しい本のひとつ」という大江健三郎の感想は、やはり言い得て妙だと思いました。
中国を観察して切り取るルポタージュは多くあるが、同時に自分も中国から見つめられていることに自覚的なルポタージュは少ない。この本の「美しさ」は、見つめることと見つめられていることの間の眼差しの揺れにあるのではないでしょうか。
上海、そして日中関係を考える上でもおすすめの一冊です。