「もし、眠るたびに記憶を失う病気にかかったとしたら、どうなるだろう」
のっけからドキリとさせる本書は、上海に住む人々が「上海人」であることを当たり前の事実としては考えていない。著者にとって、上海人とは、「ある種の戦略をもって『上海人』たろうとしている人々のこと」である。そのため本書は、「上海人」が創られていくプロセスを、歴史的な視点からわかりやすく解説してくれる。
と、まあ、それだけなら新書にありがちな解説書ですが、本書がおもしろいのは著者自身が「日本のおのぼりさんから上海人もどきへ」変化していく、波瀾万丈の留学経験を綴っていること。最後には、上海女性と結婚するに到る著者の体験談は、笑いあり、ちょっとロマンティックな挿話ありで、読んでいて楽しい。
そして読み終えてふと思う―実はこの第Ⅱ部の体験談って、『上海人』が創られるまでの極私的ケース・スタディ…?
国家の壮大な歴史から個人の生活史まで、「上海」そして「上海人」が創り出されるプロセスをここまでわかりやすくまとめた本は他に見あたらない。上海や中国を知りたい人のために絶好の良書。